僕の初恋の少女
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長い月日が流れた。
いつの間にか、僕は子どもではなくなっていた。
じゃあ君は大人なのかと聞かれれば微妙な年齢だとは思うけれど、少なくとも子どもでないことだけは確かだ。
少しだけ退屈な僕の日常は平穏に滞ることなく続いていく。
何も問題はない。
ただそこに、彼女がいないことを除いては。

あれから、彼女から連絡が来たことは一度もない。
でも、それは当然なのかも知れない。
あの時、幼い僕は身勝手に彼女を恨んだが、今の僕には彼女が何も言わずにいなくなった理由が分かっている。

僕は彼女に、嫌われてしまったのだ。

 『春臣くんはいつこっちに帰ってくるの?』
 『それがちょっと、長引きそうなんだよね。もしかしたら新学期に間に合わないかも』
 『え……そう、なんだ』
 『どうしたの? 何か僕に用でもあった?』
 『う、ううん。ただどうしてるのかなって思って電話したただけなの』

彼女との最後の会話になったあの電話。
あれは彼女からの精一杯のメッセージだったのに、僕はそれに気付くことが出来なかった。
今になってようやく分かる。
あの時彼女は苦しんでいた。
そして、僕に助けを求めてくれた。
なのに僕は……ただ、無神経に彼女を傷つけた。

無知は罪だ。
あの泣き虫の少女がどれだけ泣いたのかと考えると、僕は今でもあの時の自分を許せない。
決して取り返せない過ち。
未だに僕は、あの電話を夢に見るのだ。


彼女と過ごした時間はほんの数年足らずだった。
それなのにいつまでも忘れられないのは、あの電話が僕の人生において最大の後悔だからなのか。
それとも僕が本気で彼女に恋していたからなのか。

正直に打ち明けると、僕はこの年になっても誰かと付き合ったりしたことがない。
まあ、一方的に告白されたりしたことは何度かあったのだけれど、どうしてもそういう気にはなれなかった。
だって、考えて見ても欲しい。
好きだよ、とか付き合ってほしい、とか。
僕のそういう言葉は彼女に伝えるために取っておくと幼い日にちゃんと決めたんだ。
それなのに、彼女以外の人のために、その言葉を使ってしまうなんて変じゃないか?

うん、まあ、自分でも分かってるんだ。
僕は一途で、そしてどうしようもないくらいあきらめが悪い。
一生このままなのかと考えると暗い気持ちになるけど、まあ、今の所はあまり気にしていない。
純愛は、捨てることはできても拾うことはできないんだ。
だからとりあえずはこのままでいい。
うん、いいと思うんだ。

あの家は今も変わらず同じ場所にあって、僕は時々様子を見に行った。
彼女が戻ってくることは一度もなかったけど、あの家がそこにあるというだけで僕は望みを捨てることが出来なかった。
希望的観測って奴だって知っている。
だけど、どうしても思ってしまう。
あの少女に、もう一度会えるかもしれない、と。

「……沙耶ちゃん」
その名前は、僕に誓いを思い出させる魔法の言葉だ。

僕の初恋の少女。
大好きだった女の子。
会って君に謝りたかった。
そしてあの時の約束を叶えたかった。

 『……じゃあ、約束。僕がそっちに帰ったら、一緒に遊ぼう』
 『うん、約束……』
 『楽しみにしてるよ』
 『私も……楽しみに、してるね』

「沙耶ちゃん」
会いたいんだ、君に。
どうしようもないほど、僕は君に会いたいんだ。
また君と遊びたい。
子どもに戻ったみたいに、夕方まで、ずっと。
そしてあの時、まだ早いと頭の片隅に押し付けてしまったあの言葉を言いたかった。
忘れられるはずなんてない。
だって、本当に、僕にとってあの日々はすごくきらきらと輝いていたんだ。

君に会えたら、まずはおかえりって言おう。
君に会えて嬉しいと伝えよう。
そしてあの約束を守るんだ。

……そう、僕は待てる。
いつまでだって待てそうな気がしている。


ああ。

僕はまだ、この初恋を諦めるつもりはなさそうだ。


END
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