!DOCTYPE HTML PUBLIC "-//W3C//DTD HTML 4.01 Frameset//EN" "http://www.w3.org/TR/html4/frameset.dtd"> INNOCENT INCEST / 僕の初恋の少女
僕の初恋の少女
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日曜日。
その日は遊園地の券があるということで、僕も一緒に連れて行ってもらうことになっていた。

「春臣くーん! こっちー!」
「沙耶、そんな大きな声出さなくても聞こえるわよ」
時間ぴったりに着いた待ち合わせ場所で、沙耶ちゃんが手を挙げてぴょこぴょこと飛び跳ねている。
「こんにちは、沙耶ちゃん。今日も元気だね」
「うん! 今日はいっぱい遊ぼうね」
「ほら沙耶、飛び跳ねないの」
「だって楽しみなんだもん」
沙耶ちゃんが無邪気に笑う。
……くるくる変わる表情とか、きらきら輝いてる瞳とか。
ああ、本当にこの子はいつも可愛いなあ、と思う。
「あの、今日、本当にいいんですか? 僕も一緒で」
「何言ってるの。いいに決まってるじゃない。ねえ、沙耶?」
「うん! 私、春臣君が一緒で嬉しい! ほら、行こうよ!」
二人の笑顔に、僕は不覚にも泣きそうになってしまう。
だって本当に、こういうのは初めてだったんだ。

「ねえねえ、何に乗るの?」
電車の中でも、沙耶ちゃんはもう、めちゃくちゃにはしゃいでいる。
転びそうだなあ、と思ったら案の定電車の手すりに頭をぶつけていた。
「沙耶、平気?」
「うん、全然平気だよー! ねえねえ、それより何に乗るの?」
沙耶ちゃんのお母さんが心配するけど、一向にテンションが下がっていない。
タフだ。
すごいなあ、子どもって。僕には真似できない。
「私ね、ぐるぐる廻るやつに乗りたい!」
「ぐるぐる……メリーゴーランド?」
「ううん」
「じゃあ、コーヒーカップ?」
「ううん。あのね、大きくて座ってるやつ」
「……観覧車?」
「あ、それ!」
「意外と地味だね」
「そうね。私は落ちるのがいいかな」
「落ちる? もしかして絶叫系ですか?」
「そうよ。こう高い所まで上っていって、一気にギューンって落ちるの。気持ち良さそうよね」
「えー、ぐるぐるのがいいよ。落ちるの怖いよ」
「沙耶、人生はチャレンジよ。バンジージャンプもやってみてもいいかもしれないわ。春臣君は何がいいの?」
「僕ですか? 僕はお化け屋敷がいいです。面白いですよね、あれ。出来れば追いかけてくるのがいいです……あれ、どうかしましたか?」
「う、ううん。何でもないよ!」
「そ、そう。何でもないわ」
沙耶ちゃんと沙耶ちゃんのお母さんは顔を見合わせて、同時に首をふるふると振る。
「お化け屋敷、た、楽しみだね、お母さん」
「そ、そうね。楽しみね」
「そうですね、僕も楽しみです」

……お化け屋敷に入ってから気付いたのだが、実は二人ともそういうのがダメだったらしい。
ジェイソンが追いかけてくるのを二人で手を繋いで絶叫しながら逃げ回っている姿を見て、僕はジェイソンよりそっちにびっくりしてしまった。
多分、ジェイソンをやっていたアルバイトの彼も。
怖いのなら言えばいいのに、と言ったら怖いなんて恥ずかしいから、と口を揃えて言われた。
分からないなあ。
逃げ惑うほうが恥ずかしいよね、普通。

でも、楽しかった。
彼女の言葉通りぐるぐるまわる観覧車も、垂直落下の絶叫マシンも。
今思えば何てことのない物なのに、なんでこんなにと思うくらい楽しかった。

「お母さん、次はあれ、乗ろうよっ」
「沙耶、走っちゃだめよ」
「だって私、走るの好きなんだもん」
「迷子になったらどうするの。さっきも道に迷って春臣君に見つけてもらったばっかりでしょう?」
「あ、じゃあ春臣くんがいるから今日はいくら迷子になっても大丈夫。ね、春臣君」
「迷子になるのが前提でどうするの」
沙耶ちゃんのお母さんが空をぴしっと指差す。
「ちゃんと景色を見て歩きなさい。太陽の位置を見て、方角を考えるのよ」
「そんなの難しいもん」
仲睦まじい親子の姿を思い出すと、僕は泣きそうになってしまう。
だって、あの頃は本当に、楽しい事ばかりだったんだ。

……僕の短い人生の中でこういう表現が許されるなら、多分、あの時が最良の日々だったんだと思う。

沙耶ちゃんと沙耶ちゃんのお母さんと、僕。
今思うと僕が家族に割り込むような形だったと思うけど、二人はいつも笑顔で僕を受け入れてくれた。
僕は密かに二人の関係に憧れていたんだと思う。
穏やかで優しい沙耶ちゃんのお母さんが、僕には眩しかった。
母がいたらこんな感じなのかと思って赤面したこともある。

「春臣君、見て、見て。あっちで風船配ってるよ!」
「迷子になったら見つけてあげるけどね、僕も走るのはよくないと思うよ」
「じゃあ春臣君も一緒に走ろ? それなら絶対迷子にならないもん」
「わ……沙耶ちゃん。引っ張ると危ないよ」
「あはは、ほら、行こう!」

沙耶ちゃんのことは、好きだった。
言葉では言い表せないほど特別だった。
だって彼女はすごく可愛かったんだ。
言動や行動が一々微笑ましくて、一生懸命で、僕は彼女を見ていると優しい気持ちになれた。
彼女は泣き虫だったけど、笑ってるのが似合うなって、いつも思っていた。

ある時、僕は真剣に悩んだ。

僕は沙耶ちゃんのことを好きなのかな。
でも、好きになったら、どうしたらいいんだろうね?
告白して付き合ったりするのかな? 僕は小学四年生なのに?
沙耶ちゃんなんてまだ三年生だ。
年齢なんて一桁。

僕、変態だよ。

変態になるのは問題があった。大いに。

まだ早いよね、そういうのは。
考えて考えて、僕はそう結論を出した。
うん、僕達は子どもなんだから、今はこうしていればいいんだ。
自然に時間が流れるのを待てばいい。
居心地の良いこんな友達の距離のまま、彼女の隣にいられたらいい。

そしていつか家族の一員になれたらいい、なんて勝手に思っていた。
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