暗闇に満たされた冬の夜。
ベッドのきしむ音で、深い眠りに落ちていた意識がほんの一部分だけ覚醒する。
「……」
まどろみから醒めないように目を閉じたまま、じっと意識をはりめぐらせる。
彰人の気配。
「……」
彰人は起き上がって私を見つめている。
顔のすぐ近くにうっすらとした熱を感じるのは、彰人が手のひらをかざして私の呼吸を確かめているから。
目を開けて確かめることは出来ないけれど、きっとそう。
「……」
手のひらの気配がふいと遠ざかり、次に触れられたのは髪だった。
大きな手が髪を梳かすように撫でていく。
時間をかけて、何かを確かめるように。
彰人が何を考えて私に触れているのか、分からない。
だけど、私には簡単に想像することが出来る。
今、彰人がどんな表情をしているのか。
どんな手の形をして、どんな風に指先を伸ばしているのか。
たとえ目を閉じていても、彰人のことだから。
頬の輪郭を確かめるように指先がなぞっていく。
髪をからませた彰人の指先が首筋に触れて、ぴくりと反応しそうになったのをこらえる。
動いてはいけない。
規則正しく呼吸を繰り返さなくてはいけない。
私が起きていることが彰人に分かってしまうから。
「……」
目を開けてはいけない。
きっと目が、合ってしまうから。
不安にはならない。怖いとも思わない。
抱きしめられたほうがずっと安心できるのに、彰人がそうすることはない。
ただ何かを恐れるように、私に触れる。
次に目を開けた時、この夜を私は知らない。
例え私が起きていることを、彰人が知っていたとしても。
知っていて、こうして触れていたとしても。
「……」
彰人が何かを呟いた気がしたけれど、その言葉を聞き取ることは出来なかった。
息を殺してこの夜が通り過ぎるのを待つ。
明日の朝をいままでの二人で迎えるために。
変わらない、二人でいるために。