【 日夏朔也 】

その後は入学式やら始業式やらがあって、まだ帰っちゃいけないみたいだから
教室のざわめきをぼんやりと見ていた。
みんな、クラス替えやなんかで転校生に気を配ったりしていないみたい。
……良かった。あまり人に注目されるのって好きじゃないから。
でも必然的に顔を知っている人が、この隣に座る人だけってことになる。

「……」
本当に隣の席だった日夏君は、つまらなそうに頬杖をついて横を向いている。
「日夏君」
暇だから、話しかけてみた。
「……なんだ?」
うわ、怖い顔。でもめげずに話しかけてみる。
「日夏君はどこから転校してきたの? 私は海外なんだけど」
「日本」
返事は一言だけだった。
「えっと、日本のどこ?」
「お前に関係ない」
すぱっと言われてようやく気付く。
「もしかして、話しかけないほうがいい?」
「ああ、そうしろ」

日夏君はそれきり横を向いてしまって、私はまた暇を持て余す。
持て余す、持て余す、持て余す……。

「ねえ、どうして転校して来たの?」
持て余して、ついまた、話しかけてしまった。
「さっき話しかけるなって言わなかったか?」
日夏君が嫌々といった風にこっちを向く。
「だって、退屈しない?」
「そんなこと、知るか」
日夏君はそれきり言って、また視線を窓に戻した。
いいなあ、窓際は。退屈しなそうで。
私も日夏君越しに、窓を見る。桜、見えないかな。
……あ、見えた。
「……だから、見るなって」
「あ、窓の外を見てるだけだから気にしないで」
「窓なんか見て何が面白いんだ」
「外が見えるじゃない。それに私、日本の学校すごく久しぶりなの。
なんか、変な感じ。みんな同じ服着てるんだね」
「お前だって着てるだろう」
「自分の姿は外から眺められないもの。でも日夏君は、なんとなく浮いてるね」
「……人の事言えるのか?」
「あ、そっか。制服が新しいからお互い転校生だってすぐ分かるってことだね」
「まあ、そうだろうな」
そこでぷつりと会話が途切れる。

それ以上話しかけることも思いつかなくて……またぼうっと教室の喧騒を眺める。
顔と名前が一致していないクラスの人たち。
なんだか、自分がここにいることが不思議に思えてしょうがなくなる。

早く彰人に会いたいなあ、と思った。















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