【 谷川彰人 】
「沙耶」
その時、彰人が私の名前を呼んだ。
冷たく響く、意思がこめられた声にすぐに反応した。
「誤解じゃないかもしれない」
「え?」
「俺もいなくなるかもしれないよ」
彰人の声は冷静で、顔はいつも通りの無表情だった。
「なんで……なんでそんなこと言うの?」
さっき以上に自分が混乱していくのが分かった。
「俺がいなくなるのは嫌?」
どこか試すように、彰人が聞く。
「嫌に……決まってるじゃない」
「面白いことを言うんだな」
彰人はそれがとても意外なことのように呟く。
「だって沙耶は、俺がいなくても平気じゃないか」