夜の公園

「満月まであと少しって所か」
「そうなの?私にはまんまるに見えるけど」
男が月を指差す。

「端が少し欠けてる。昨日もここに来てたのか?」
「……うん。ここ、好きなの」
頬を撫でる風が心地いい。
気持ちがやわらかくなるみたいで、私はいつになく素直に返事をした。

「……どうだろう?嫌いじゃないと思うけど」
月が好きだったのは、お母さん。
窓から綺麗な月が見える夜は、よく窓辺に佇んで空を見ていた。
ああいう時のお母さんは、声をかけるのをためらってしまうくらいに綺麗だった。

「じゃあ、空が好きなのか?」
「……ううん、違うよ。空を見ていると退屈しないから見てるだけで、好きっていうのとは少し違うと思う」
それはお母さんに話したいと思っていたことだった。
でもね、お母さん。
一人で空を見ていると、時々悲しくて苦しくなるんだよ、って。そう言いたかった。

「あなたは?」
「そうだな……。嫌いじゃないけど、でも、できるだけ見ない」
「どうして?」
嫌いじゃないのに見ないなんて、変なの。

「空しか見るものがないなんて、なんか寂しいだろ」

男の言葉に驚いて、視線を月から男に移す。
この人も、私と同じことを思ったことがあるの?

「……どうした?」
思わずじっと見つめてしまったみたいで、男が不思議そうな顔をして私を見る。
私は慌てて視線を外した。

「……なんでもない。私、病人だから変なの」
「何だそれ」
そう言った男は、私には笑ったように見えた。
私の勘違いかもしれないけど。
でも、いつもの無表情とは違う、月明かりの下でどこかかすんでみえる横顔だった。

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